みそソムリエ

みそソムリエが語る 〜発酵・熟成の秘密〜 

2020/01/23

先日は、みその種類について、お伝えしました。

全国には、1000種類以上のみそがあり、

麹の種類や色・味で分類されます。

みそソムリエが語る 〜1000を超えるみその種類〜  - ほりさんの食選択応援Blog

 

みその魅力は、

発酵食品であること。

 

菌や微生物の力によって、形を変え、

また新たなものを生み出す、神秘的な食べ物です。

 

発酵食品=生きた食べ物。

 

原料・分量・製法が同じでも、環境によって、

日々、変化し、同じものはできません。

 

今日は、みその発酵・熟成について、紹介します。

 

みそがみそである所以 発酵・熟成の秘密

みそが、他の食品と決定的に違う点は、

発酵・熟成」が必要だということ。

 

みそは、大豆・米・麦などで作った麹と食塩を混ぜて、

発酵熟成させたものとされています。

 

大豆に、麹と塩を混ぜただけでは、

それは、まだ、みそではありません。

発酵・熟成させる点が「みそのみそ」なのです。

 

発酵熟成に欠かせないものが「麹」です。

この麹は、原料の成分を分解する際に必要な「酵素」を持っています。

 

それでは、「酵素」とはなんでしょうか?

 

消化酵素や代謝酵素・食物酵素など、様々な酵素があります。

酵素ドリンクというものも、街中で見かけることが多くなりました。

 

酵素2

 

 

「酵素とは、生物から作られるタンパク質です。」

酵素自体は、生き物ではありません。

 

しかし、酵素には、重要な働きがあります。

この働きとは、

物質の分解です。

 

この働きを行うパワーがあり、化学反応が活発な状態を「活性」

働きを失うことを「失活」と言います。

 

みそにおいては、大豆や米・麦などの原料の成分が、

酵素によって、分解され、軟らかくなり、味や旨味が作られます。

分解によって、生成されたものが、

また、「酵母」や「乳酸菌」などのエサとなり、

みその味や香り、色などを作り出します。

 

発酵を正常に行うために、必要なものが、

食塩水分です。

 

塩によって、非耐塩性の微生物の働きを抑制し、

みそにとって、有用な微生物の働きを活性化します。

つまり、「微生物のコントロール」をしています。

 

水にも、同じような働きがあります。

みその中においては、酵素や微生物などは、

みその中の水分に溶け込みます。

常に、この水の中で、活動することから、

水分によって、「微生物のコントロール」をしています。

 

みそ作りにおいて、大切なことは、

大豆・麹・塩・水の混合の割合です。

甘口や辛口など、味の違いは、

塩の量で決まると、思われがちですが、実は違います。

 

味の違いを分類する最大の要因は、

麹の割合です。

 

麹の量が多くなればなるほど、みそは甘くなります。

一般的に、大豆とほぼ同じ量の麹が、使われていると

そのみそは、甘口と考えてよいでしょう。

 

みその発酵・熟成のメカニズム 主な3Step!

みそは、多くの作用が同時並行に起きていますが、

単純に分けるならば、主に、3つの段階があります。

 

  1. 麹による分解

  2. 微生物による主発酵

  3. 熟成(化学的反応)

ざっくり言うと、

麹によって、原料を分解する。

分解されたことで、グルコースやアミノ酸などの栄養素が豊富になる。

そしたら、微生物が活動開始。

さらに、化学の力が働き、色や香りが変化。

旨味や深い味わいが加わり、みそになる。

 

こんな感じです。

言葉では、簡単です。

しかし、実際は、みそづくりは、大変でもっと複雑です。

 

手間と愛情。

そして、自然・化学の力が合わさって、

みそのおいしさとなっているのです。

 

1.麹による発酵 みその甘みの秘訣

第1段階として、麹菌の酵素により、原料が分解されます。

麹菌の特徴は、デンプンを分解する酵素を持っていること。

そして、同時にタンパク質を分解する酵素も持っていることです。

 

米の分解に働く酵素が、「アミラーゼ」です。

このアミラーゼの働きによって、

デンプンは、最終的にグルコース(ブドウ糖)に分解されます。

(厳密にいえば、α-アミラーゼ・グルコアミラーゼなどに分類される。)

 

このグルコースは、微生物のエサとなり、

第2段階の働きにも関わってきます。

そのほかにも、みその甘みにも関わってくるとされています。

 

アミラーゼは、私たちの唾液や膵臓からも分泌されます。

例えば、お米を口に入れて、しばらく待っていると、

ほのかに甘みを感じませんか?

それは、お米の消化が、口のなかで、始まっているからです。

 

大豆のタンパク質の分解に作用する酵素は、

「プロテアーゼ」という酵素です。

タンパク質は、最終的に、アミノ酸にまで分解されます。

このアミノ酸は、みそのうま味に関与するとされています。

 

そのほかにも、リパーゼによって、

大豆の脂質が脂肪酸とグリセリンに分解されます。

 

温度や環境などにもよりますが、よい状態であれば、

3週間ほどで、次の段階に進みます。

 

麹

 

2.微生物による発酵 芳醇な香りに影響

麹菌の酵素の分解により、グルコースやアミノ酸が増えてくると、

いよいよ、微生物が活発に働き出します。

 

まずは、乳酸菌が働き出します。

乳酸菌は、よく耳にすることがあると思いますが、

ひとつの菌の名前ではなく、

「炭水化物(糖類など)を発酵してエネルギーを獲得し、

多量の乳酸を生成する一群の細菌」の総称です。

 

現在では、250種類以上の乳酸菌が存在すると認められています。

今後の研究次第では、新たな乳酸菌が発見されるかもしれません。

 

みそにおいては、

「テトラジェノコッカス・ファロフィルス」という

乳酸菌が主に活動します。

 

みそにおける乳酸菌の働きは、以下の通りです。

  1. みそのPHを下げて、酵母の生育環境を整える。
  2. PHを低下させて、変敗微生物の生育を阻止し、保存性を向上させる。
  3. 塩慣れの促進、原料の臭いの消失。
  4. 着色抑制。

なので、みそが熟成する前は、白っぽくドロドロしています。

 

さらに、環境が整ってくると、

次に「酵母」が働き始めます。

酵母は、英語で「イースト」とも呼ばれ、

パンづくりなどでも、耳にしたことがあるのでは、ないでしょうか。

 

みそにおける主要な酵母は、

「チゴサッカロミセス・ルキシー」という種類です。

 

みそにおける酵母の働きは、以下の通りです。

  1. グルコースを発酵し、エチルアルコールを生成する。
  2. 各種アミノ酸から、高級アルコールを生成し、香りを醸成する。
  3. コハク酸を生成し、味に「まるみ」を付与する。
  4. 脂肪酸に作用し、グリセリンを生成する。

酵母は、みその香味形成に重要な働きを果たしています。

 

発酵熟成期間中の後半など、時間が経ってくると、

みその表面に、「白いカビ」のようなものが付着します。

しかし、これはカビではなく、

産膜性酵母」という酵母の一種です。

 

産膜性酵母に毒性はないので、問題はないのですが、

あっても特に良い効果はないので、見た目的にも、

取り除いたほうが無難でしょう。

 

プリント

 

 

3.熟成  みその美しさ・深い味わいを生み出す。

この段階になると、化合・重合など、

生物が関与する発酵とは、別の自然な世界での

成分的な調整が行われます。

そうです。化学です。

 

熟成とは、発酵とは違い、微生物の力ではなく、

無機的で化学的な化合・分解・重合などによって、

成分の変化が起こるものです。

生き物は関与していません。

 

発酵によって、生成された様々な物質が、新たに化合することで、

みその美しい色や、香り、深い味わいが生み出されます。

熟成が長ければ、長いほど、一般的に色は濃くなります。

 

熟成にかかる時間は、発酵に比べると、かなり長いです。

ほっておけば、いつまでも、反応は進んでいきます。

長期の熟成は、長さがゆえに評価もされますが、

長すぎる熟成は、過熟となり、みその品質の劣化につながります。

 

みそ 熟成

 

みその発酵熟成に影響する4大要素

みその発酵・熟成をコントロールするために、

大切な要素は、以下の4つです。

  1. 水分

  2. 塩分

  3. 温度

  4. 時間

この4つを効果的に活用すれば、

あなたもみそを思い通りに、発酵させることができます。

(実際は、単独ではなく、他の複数の要素と関わり合いながら、

相乗的に変化をうみだすため、未知数。)

 

 

水分や塩分は、

みそが正常に発酵熟成するためには、必要不可欠です。

また、発酵は生き物が関わる反応なので、一定の時間も必要となります。

なので、どの要素も大切なのですが、

温度は、微生物の活動において、決定的な影響力を持ちます。

 

高温は微生物の致命的ダメージ

一般的に、酵素は、高温になると失活してしまいます。

さらに、菌にも生育適温があり、温度が高すぎると死滅してしまいます。

 

みそでいうと、

麹菌

  • 生育適温 25~30℃
  • 生育限界 50℃。

アミラーゼ・プロテアーゼ

  • 作用適温 50~60℃。
  • 失活温度 75~80℃。

酵母菌

  • 生育適温 20~30℃
  • 活動適温 25~35℃
  • 生育限界 約70℃(20分)

乳酸菌

  • 生育適温 25~35℃
  • 活動適温 20~30℃
  • 生育限界 約75℃

 

高温では、微生物や酵素の働きは失ってしまいます。

なので、普段、料理する際の、加熱のしすぎは、

食物がもつパワーや栄養素を自ら、無くしているようなものです。

 

しかし、高温で加熱することで、菌が死滅するので、

食の安全という面では、メリットがあります。

 

また、野菜などでは、カサが減るので、

摂取量を増やすことにもつながります。

 

食べ物から、どのような力を得たいのか。

どのような、栄養素を求めているのか。

 

その時の自分の目的に合わせて、調理法も工夫していきましょう。

 

話はそれましたが、

みそづくりにおいても、温度は非常に大切な要素で、

温度次第では、微生物は働かず、みそは完成しません。

 

ちなみに、みその有用菌は、

だいたい低温環境に強く、氷点下でも死滅はしません。

(いわゆる休眠の状態です。)

 

なので、みそは、日持ちする保存性に優れた食品です。

保存温度が15℃以下では、微生物の主発酵を抑えることができます。

また、5℃以下にすれば、酵素による分解や熟成も抑制され、

色の変化もありません。

冷凍庫などに入れておけば、1年を超える長期保存も可能です。

ちなみに、みそは冷凍庫に入れても、凍りません。

 

 

発酵の不思議と無限の可能性

人の力だけではなく、微生物の力や

化学が融合し、時間をかけて完成するみそ。

まだまだ、未知数の部分もあり、神秘的な発酵の分野。

 

生きた食べ物だからこそ、

食物がもつパワーをさらに倍増させ、

環境によって、唯一無二のものへと変化する。

 

発酵食品には、まだまだ、解明されていない不思議や

秘めたパワーがあるのではないでしょうか。

これからも、私たちの健康において、

注目される分野の食品だと考えます。

 

私は、研究者ではないので、

新たな発見をする可能性は、0.1%もないでしょう。

そこは、研究者のみなさんお願いします。

 

しかし、この伝統的な日本のみその文化を

広めることはできると思っています。

まずは、周りの方々から。

そして、日本だけでなく、

海外にも伝えることができたらいいなと考えています。

 

次回は、みそがもつパワーや機能性について、紹介します。

お楽しみに。

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