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プロアスリートをサポートする管理栄養士が考える効果的な栄養摂取のポイント

2024/10/11

効果的な栄養摂取のポイント

パフォーマンスUpのためには、日々の「トレーニング効果を最大化」することが大切です。そして、「トレーニング効果を最大化」するためには、食事からの「準備」「リカバリー」が大きな手助けとなります。効果的に栄養摂取するために、大切なことは、「何をどのくらい食べるか?」を考えるだけでなく、「いつ食べるか?」ということも重要です。目的によって、摂取すべき栄養素やその量を調整するだけでなく、タイミングも考慮することで、より効果的な栄養摂取となるでしょう。

1日の栄養摂取量の目安

アスリートが必要な1日の必要栄養摂取量は、主に除脂肪体重や運動強度、トレーニング量を始め、1日の活動量などをもとに算出します。筋肉量が多く、トレーニング強度が高い活動を長時間やればやるほど、必要な栄養摂取量は増えます。

推定必要エネルギー量の計算式

推定必要エネルギー量を算出する方法は、いくつかありますが、主に以下の計算式を用いることが多いです。

「28.5×除脂肪体重(kg)×身体活動レベル(PAL)」

除脂肪体重(Lean Body Mass:LBM)とは、体重から体脂肪を除いた筋肉量や骨、内臓などの総重量を指します。競技によって変わりますが、一般的には、この除脂肪体重を増やしていくことが体づくりのPhaseでの目的や目標となることが多いです。大まかな基礎代謝量は「28.5×除脂肪体重(kg)」で算出できます。また「身体活動量レベル(PAL)」とは、身体活動の強さと時間(メッツ・時)を掛けたもので、運動強度が高くなればなるほど、また、運動時間が長くなればなるほど数値は高くなります。身体活動レベルは、「1日のエネルギー消費量÷基礎代謝量」で算出することができます。年齢によって、少し補正などは必要ですが、一般成人では、大まかに「レベルI(低い)1.5/ レベルⅡ(普通) 1.75/レベルⅢ(高い)2.0」という形で分類されています。

アスリートのあなたの正確な身体活動レベルを算出するには、トレーニング内容やトレーニング量などを実際に見て把握したり、GPSをつけて運動量や運動時間を算出したり、研究機関等での測定が必要となりますが、大まかに算出する際には、私は「オフ(1.5-1.6)/筋トレのみ or 午前・午後だけのTr (1.7-1.8)/1日Tr (2.0)」で 計算します。

(例)「体重が80kgで体脂肪率が12%のアスリートが午前/午後と1日トレーニングをする」
こちらの選手の推定必要エネルギー量(kcal)を算出するとしたら以下の手順で計算します。
①除脂肪体重を算出 → 「80kg×0.88=70.4kg」
*体重全体(1)のうち12%(0.12)が体脂肪 → 88%(0.88)が体脂肪以外
②推定必要エネルギー量を算出→ 「28.5×70.4kg×2.0=4013kcal」
というわけで、こちらのアスリートの場合1日で約4000kcalのエネルギー量が必要となります。

1日に必要なたんぱく質量

エネルギー量の他にもう1つ考慮したいのは、必要なたんぱく質量です。体づくりにたんぱく質は欠かせません。計算式は以下の通りです。

「体重kg×1.2-2.0」

アスリートのたんぱく質の目安量として、体重1kgあたりで計算をします。一般的には1.2-2.0をかけることが多いです。こちらの数値も競技内容やトレーニング量、トレーニングの目的などによって数値は変化します。「筋力や瞬発力が必要なアスリート」でこれらの能力を向上させることを目的とした場合は2.0を使うことが多いです。「球技系の種目」では1.75「持久系アスリート」で1.2-1.5程度がある程度の目安の数値となります。各スポーツ協会や研究機関、国によって若干この数値は変わります。

たんぱく質の摂取上限量については、明確の根拠となる研究や報告がまだ不十分なため、現時点では設定されていません。ただし、たんぱく質を摂取しすぎると、腎臓や肝臓に負担が大きくなり、倦怠感や疲労が蓄積される可能性があること。また、体たんぱく質合成に利用されるたんぱく質の上限があることから、Maxでも体重あたり2.0gとしている国や協会が多いです。海外やボディービルダーの方の中には、体重あたり2.0g以上で計算することもあり、私も実際にラグビーチームでNZの選手と話した時に体重あたり2.4-3.0で考えている選手もいました。とはいえ、まずは、1.2-2.0g/体重kgで設定し、様子を見ていくのが無難かと思います。たんぱく質の過剰摂取も体脂肪の蓄積につながるため、多く摂取すればするほど良いういうわけではありません。トレーニングの強度や量によって、適量がどれくらいか日々、修正していきましょう。

(例)体重が80kgでパワー、瞬発系の競技のアスリートの必要なたんぱく質量
80kg×2.0g=160g
1日に必要なたんぱく質量は160gとなります。


こちらのアスリートの場合、必要なエネルギー量4000kcal&たんぱく質量160gを
朝 / 昼 / 夕/ 補食でどのようにバランスよく摂取するかを考慮して、食事を組み立てます。

アスリートは体重測定を習慣にしよう

必要なエネルギー量やたんぱく質量はある程度、計算で算出できますが、トレーニングに見合った必要な栄養量をしっかり摂取できているかを判断するためには、体重測定を行い、こまめに変動を見ていくしかありません。私がサポートしていたラグビーチームでは、Inbodyという機械を利用して、週に2回測定を行い、体重だけでなく、筋肉量、体脂肪量、体水分量の数値の変動を選手とチェックしていました。私がその経験から感じたことは、日本代表の経験がある選手やレギュラーで試合に出場し続ける選手は、自分なりの調整法があり、体組成に関しても毎年シーズンに合わせて、しっかり調整してくるということ。あまり気にしていない選手は体重の変動が大きかったり、波が多く、体水分量が回復していなかったり、試合をするたびに体重が減少し続けるなどという傾向があるということです。一流の選手になればなるほど、ウエイトコントロールなどを始め、自己管理能力が高いというような印象です。

私が見てきた中で、最もウエイトコントロールに優れた選手は、6月のチーム始動日からシーズンオフの最終日までずっと自らが調子が良いと感じている体重や筋肉量の数値から、±1.5kgをキープ。試合後もすぐリカバリーし、全く波がない状態でした。どのようにして、そのようなウエイトコントロールを実現しているか、聞いてみたところ、起床時に体重測定をして、朝食の量を決める。そして、練習前後の体重測定をして、昼食の量を調整する。夕食前に体重測定をして、食事量を決め、就寝前にも体重測定をして1日のフィードバックを行う。試合時は、夕食前後に体重測定をして、食事量をこまめに調整している姿がとても印象的でした。まさにプロフェショナルだなと感じたシーンの1つです。自己管理能力が高い選手は、選手寿命も長く、長年活躍されているなとも感じています。

トレーニングに見合った栄養量が過不足なく摂取できているか、体水分量の状態はどうか、脱水はしていないか、リカバリーが順調か。そのようなことを判断するためにも、アスリートは体重測定を習慣にしてください。体重測定の変動を見ながら、毎日の食事量も調整していきましょう。

トレーニング前後の栄養補給のポイント

ここまで、日々の「トレーンング効果を最大化」するためには、食事からの「準備」「リカバリー」が必要だということを繰り返し、お伝えしてきました。そして、「何をどれくらい食べるか?」だけでなく、「いつ食べるか?」、つまり、「栄養補給のタイミング」が非常に大切だとお伝えしてきました。

この章では、トレーニング前後の栄養補給のポイントについてお伝えします。

基本的にまず、おさえておきたいポイントは、以下の2点です。
①トレーニング前は「糖質」からエネルギー源を確保しておく
②トレーニング後は、「糖質」と「たんぱく質」から素早くリカバリーする

トレーニング前は糖質を十分摂取して準備する

筋肉を動かすためには「ATP(高エネルギー性化合物)」と呼ばれるエネルギーが必要で、「ATP」を生み出す過程には「ATP-CP系」・「解糖系」・「有酸素系」と呼ばれる3つの経路があります。この3つの経路にはそれぞれ特徴があり、運動強度や持続時間によって、使われる経路が変わってきます。ざっくりいうと、以下の通りです。

・「ATP-CP系」→「瞬発系」(ハイパワー)の種目 *スプリント・短距離走・ウエイトリフティングetc.
・「解糖系」→「筋持久系」(ミドルパワー)の種目 *400m走などの中距離走や競泳100m etc.
・「有酸素系」→「持久系」(ローパワー)の種目 *マラソン、ジョグetc.

筋肉を動かす3つのエネルギー供給系|DNSニュートリションガイド
(DNS ZONEでわかりやすくまとめらていますので、こちらを参考に)

この3つの経路のうち、「ATP-CP系」はクレアチンリン酸という物質がATPのエネルギー供給に関わり、「解糖系」では糖質を中心に、「有酸素系」では、糖質と脂質が中心となって、エネルギーを生み出します。
「ATP-CP 系」の持続時間は7-8秒程度であり、完全に回復するためには、3分程度かかるとされています。「解糖系」の経路では、30秒から60秒くらい最大限の筋収縮が可能とされていおり、「有酸素系」では、長時間の運動が可能とされています。

種目によっても変わり、トレーニング内容によってもエネルギー回路は変わりますが、野球やサッカー、ラグビーなどの球技系の種目の試合や練習をイメージしてみてください。このような種目では「瞬発的な動き」(一瞬のスプリントの動きやバットを振る、ボールを投げるetc.)の動きと「筋持久系の動き」(60-80%程度のスピードでのランニングでの移動etc.)の繰り返しによって構成され、絶えず「解糖系」からのエネルギー供給の経路の力を借りて「ATP」を生み出すことで、試合や練習で長時間プレーすることを可能としています。あらゆる種目のトレーニングにおいても、やはり「解糖系」からのエネルギー供給の貢献度は高いと想像できます。

グルコース(ブドウ糖)が多数枝分かれした多糖類を「グリコーゲン」と呼び、このグリコーゲンが筋肉や肝臓に蓄えられており、必要な時に酵素の働きで分解され、グルコースや「ATP」(筋肉を動かすためのエネルギー源)を生み出します。このグリコーゲンの材料の中心となるのが糖質なのです。
つまり、私たちが、運動するためのエネルギー源を生み出すためには、どれだけ筋肉や肝臓にグリコーゲンを貯蓄することができているかがポイントの1つです。だからこそ、トレーニング前には、糖質を十分に摂取して、体を動かすために必要な準備をすることが重要なのです。

トレーニング前の糖質が十分でないとどうなるか?

トレーニング前の糖質が十分でないと、トレーニング中に様々なネガティブな反応が起こるリスクが高まります。代表的なものとして、スタミナ切れや筋分解、倦怠感、集中力の低下などにつながり、コンディションの悪化や怪我や故障につながる可能性も十分に考えられます。

だからこそ、トレーニング前までに十分に糖質を摂取して、「トレーニング効果化を最大化」する「準備」が必要なのです。試合前も考え方は同じで、試合前となるとさらに「タイミング」を考慮することが必要です。

エネルギーに変わるまでの時間はどれくらいか?

栄養素は、摂取するだけでなく、「消化して、吸収する」ことで、初めて効果が発揮されます。つまり、トレーニングをする時や試合をするまでに、食べたものが消化して、吸収している状態なのかを考慮する必要があります。だからこそ、食事を組み立てる時には、「トレーニング開始時間や試合開始時間から逆算して、栄養スケジュールを設定する」考え方が大切です。それぞれ、食品が消化されるまでの時間は異なり、糖質を構成する糖の種類やタンパク質・脂質の含有によって消化時間は変わります。一般的にたんぱく質や脂質が多ければ多いほど、消化までの時間は長くなります。

もし、9時からトレーニング開始だとすると、慌てて8時30分くらいにいつも通りの朝食を食べていては、間に合わないということです。トレーニング開始時までに糖質の摂取量が不足している場合は、補食などを活用し、糖質を摂取することも検討しなければなりません。その場合は、比較的エネルギー源に変わるまで早いとされている、「バナナやカステラ、おにぎり、エネルギーゼリーやスポーツドリンク」などを補食として活用することがおすすめです。

同じ、糖質でも、糖質の種類や構成されている(グルコース、フルクトース、ラクトース、パラチノースetc.)や結合している分子の種類によっても消化・吸収時間は変わってきますし、同じ飲み物でも、糖質の濃度によって、吸収されるまでの時間は変わってきます。また、その日の体調などによっても変化するので、いろいろ試しながら、自分にあった練習前や試合前の食事からの「準備」のルーティーンを見つけていきましょう。大切なことは、繰り返しになりますが、「何時から動き出すのか?」また、「何時ごろまでに、エネルギーが満タンの状態を作る必要があるのか?」など、しっかり、「練習時間や試合時間から、逆算して食事を組みたてること」です。練習前や試合前はしっかりと、糖質を摂取して、パフォーマンスを発揮するための「準備」を行いましょう。

トレーニング後は、「糖質」と「たんぱく質」から素早くリカバリーしよう

「トレーニング効果を最大化する」ためには、トレーニング前の「準備」と同じくらい、トレーニング後の「リカバリー」も重要となります。私たちは、トレーニングすることで筋肉がダメージを受け、炎症を起こしたり、疲労が蓄積することにつながります。パフォーマンスを発揮するためにも、怪我や故障のリスクを減らすためにも、この筋肉のダメージを早くリカバリーさせることが非常に重要となります。クールダウンやストレッチ、入浴や睡眠など、リカバリーする方法は、様々ありますが、栄養の観点から言うと、①「失った水分を回復すること」そして、②「糖質」「たんぱく質」トレーニング後、素早く摂取することが大切となってきます。筋肉は、「破壊(損傷)」と「修復」を繰り返すことで強くなっていきますが、この筋肉を修復するために必要な主な材料が「たんぱく質」です。したがって、材料である「たんぱく質」が不足しては、十分に筋肉が修復できず、疲労が抜けない原因やパフォーマンス低下の原因となります。トレーニング中は、適切にトレーニングを行い、十分な栄養と休養を取れ入れることで、パフォーマンスが向上していくことにつながります。特にトレーニング後、

トレーニング後の筋肉の一時的な損傷と修復のプロセスをより、詳しく知りたい方は、ぜひ、「超回復理論」「フィットネス疲労理論」を参考にしてもらえると良いと思います。

「たんぱく質」はもちろん、「糖質」も不足していないか?

トレーニング後、「リカバリー」するために、「素早くたんぱく質を十分摂取すること」と同時に「糖質」も摂取することが重要です。トレーニングをすることで、筋肉中に蓄えられたエネルギー源(筋グリコーゲン)は減少、もしくは枯渇します。トレーニング後、なるべく、早く筋グリコーゲンを回復することで、筋分解を抑えることにつながります。特に、1日に数試合するアスリートや、試技が数回あるアスリートは、「リカバリー」すると同時に次の競技のための「準備」が必要なので、より一層、トレーニング後の糖質摂取は重要となります。国際スポーツ栄養学会や国際オリンピック委員会(IOC)を初め、様々な団体でもトレーニング後の素早い糖質補給について、言及されており、国際スポーツ栄養学会の見解では、トレーニング後30分以内に糖質を摂取することが望ましいとしています。また、国際オリンピック委員会では、摂取量についても提唱しています。運動強度によって変わりますが、以下がその目安となります。

DNS ZONE Nutrition Guide

ここまで、まとめるとトレーニング後は、「素早くリカバリー」することが大切で、適切に栄養と休養を取り入れることが必要です。その際に、栄養面では、「水分」・「糖質」・「たんぱく質」を素早く摂取することを意識しましょう。

私が、実際にラグビーチームに帯同していた時は、トレーニング後、素早くリカバリーするためにお弁当の準備や「高タンパクパン」やヨーグルト、牛乳、豆乳、オレンジジュース、バナナ、ゼリーなどを捕食として、準備していました。また、試合後のリカバリーには、サンドウィッチやおにぎり、プロテインミルクなどを用意することが多かったです。

バランスの取れた食事とは?

「バランスの良い食事をしましょう。」よく、そのような言葉を耳にされることが多いのではないでしょうか?バランスの良い食事をすることは、食事の基本だと考えます。しかし、そもそも「バランスの良い食事」とはなんでしょうか?

次の写真を見てください。

①と②を比べたときに「カロリーが高いのはどちらでしょう?」

このようにして見ると、お菓子やジュースなどもあり、①の方がカロリーが高いと思われる方もいらっしゃるのではないでしょうか?

実は①も②も1200kcal前後とカロリーは大きく変わりません。

では、①と②「バランスのよい食事はどちらでしょうか?」

そのように質問をすると、②と答える方が多いのではないでしょうか?
バランスの良い食事=質の良い食事とは、「必要な栄養素(5大栄養素)を過不足なく、バランスよく摂取できる食事」だと私は考えています。

5大栄養素を過不足なく摂取するためには、前回、お伝えした「食事の基本形」を意識することがポイントです。なるべく、毎食、この基本形に近づけるように、1品でも多く、必要な食材を付け加えることから始めていきましょう。

こちらの記事もぜひ、参考にしてみてください。
https://hori3.com/archives/2957 

必要な栄養素や栄養量は、食事の目的、タイミング、トレーニング量、筋肉量などによって、一人ひとり変わります。日々、体重測定を行い、筋肉量や体脂肪量の変動を見ながら、食生活を調整していきましょう。調整する際には、「量or頻度orタイミング」の3つの観点から、見直してみると良いと思います。必要な栄養について、より詳しく知りたい方は、こちらからお気軽にお問合せください。https://hori3.com/inquiry


「何をどのくらい食べるか?」から、「いつ、何をどのくらい食べるか?」にレベルアップして、「トレーニング効果を最大化」することにフォーカスし、パフォーマンスUpにつなげていきましょう。

本日のまとめ

  1. 効果的な栄養摂取のためには、「タイミング」が重要
  2. トレーニング前は「糖質」を十分に摂取して、トレーニング効果を最大化する「準備」をする
  3. 食事の消化・吸収時間を考慮して、何時間前に何を食べるかなど内容を調整する
  4. トレーニング後は、「糖質+たんぱく質」を素早く十分に摂取して「リカバリー」に全集中する
  5. アスリートは、食事の基本形を意識し、5大栄養素を過不足なく摂取することを継続する

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